早期母子接触、母子同室、出産直後の授乳は出産後6か月間の母乳栄養による育児と関連する
富山大学医学薬学教育部看護学専攻博士課程前期の稲野仁美と同大学学術研究部医学系母性看護学の長谷川ともみ教授らのグループは、約80,000人の母親を対象に母乳栄養による育児に関連する要因を探索する研究を実施しました。
その結果、出産直後の授乳、早期母子接触、母子同室と母乳栄養による育児の間には正の関連が見られました。一方、産後6か月以前の託児、妊娠中の喫煙と母乳栄養による育児には負の関連が見られました。
これまでに、母乳栄養による育児は子どもの免疫力を向上させ、お母さんの乳がんや卵巣がんを減らすといった効果もあり、出生体重1500g未満の極低出生体重児では壊死性腸炎の発生予防に母乳投与が有効であることがわかっています。また、初乳に含まれる免疫グロブリン(IgA)が感染防御に効果を発揮し、人工乳に比較した母乳の消化の良さも利点とされています。
厚生労働省の平成27年度乳幼児栄養調査(対象1,235人)では、妊娠中に母乳育児に対する考えを尋ねたところ、「ぜひ母乳で育てたいと思った」、「できれば母乳で育てたいと思った」と回答した人が合わせて9割を超えており、多くのお母さんが母乳で育てたいと考えています。一方、出産後3か月時点で母乳栄養を実施しているのは54.7%であり、人工乳との混合栄養が36.1%、人工乳のみの栄養が10.2%と、希望している人より少ない実情があります。しかし、日本ではこれまでどういった要因が母乳栄養の継続と関連するのか、大規模に調べられたことはありませんでした。そこで、本研究では80,491名の母親を対象に産後6か月間の授乳状況を調べ、母乳栄養による育児にプラスに関連する要因とマイナスに関連する要因を探索しました。
その結果、次の3点が明らかになりました。
(1)出産後6か月間の母乳栄養による育児を実施した母親の割合は37.4%
(2)出産直後の授乳、早期母子接触、母子同室が正の関連要因
(3)出産後6か月以前からの託児所利用、妊娠中の喫煙、肥満が負の関連要因
これらのことから、出産直後の授乳、早期母子接触、母子同室といった産後早期のケアを実施する産科施設で出産する母親が増えることで、母乳栄養による育児の割合が上昇する可能性が示唆されました。
今回の研究は実験的に行ったものではなく観察研究であるため、正の関連要因として示した項目が実際に「効果がある」、負の関連要因として示した項目が実際に「阻害する」、ということを証明できたわけではありません。この結果はあくまでも、「効果をもたらしている可能性がある」、「阻害している可能性がある」ことを示しているのみであることに注意が必要です。また、本研究は質問票により情報収集を行っており、回答者の記憶に頼って得た情報であり客観的な情報収集ではなく主観的な情報も含まれている点にも留意することが必要です。
乳首に傷や痛みが生じることで授乳がうまくいかない場合もありますが、こういった要因は本研究では情報収集できませんでした。本研究で検討した項目以外にも、母乳栄養による育児と関連する要因はあるため、今後のさらなる研究が期待されます。
今回の研究成果は、英国の学術系専門誌「Scientific Reports」において2021年3月25日にオンライン掲載されました。