再発リスクの高い腎臓がんに対する術後ペムブロリズマブ投与が無病生存期間を延長することを証明
ポイント
- 淡明細胞型腎がん患者に対して、腎摘除術または腎摘除術と転移巣切除術後の補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ [1]の投与は、プラセボ(偽薬)[2]を投与した場合に比べて、再発または死亡のリスクを32%低減できることが明らかとなりました。
- 24ヵ月時点での無病生存割合は、ペムブロリズマブ群77.3%、プラセボ群68.1%でした。
- グレード3以上の有害事象は、ペムブロリズマブ群の32.4%、プラセボ群の17.7%で認められました。ペムブロリズマブに起因する死亡例はありませんでした。
- この研究成果は、2021年8月19日付けでThe New England Journal of Medicineにオンライン公開されました。
概要
富山大学学術研究部(医学系)腎泌尿器科学講座の北村寛教授らの研究グループは、再発リスクの高い腎臓がん患者に対して、免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブによる術後補助療法が無病生存期間 [3]や全生存期間 [4]を有意に延長する効果があることを明らかにしました。本治療の導入により、腎臓がんの予後改善につながることが期待されます。
研究の背景
遠隔転移を有する腎臓がんの予後は不良です。組織学的悪性度が高い大きな腫瘍や、腎静脈あるいは下大静脈への浸潤がある腫瘍、腎臓周囲への浸潤がある腫瘍、所属リンパ節転移への転移がある腫瘍などは、がんを手術で取り切れても、遠隔転移をきたしがんで亡くなるリスクが高いことが知られています。しかし、このようながんに対して手術再発や転移のリスクを下げる術後補助療法は、確立したものはありませんでした。
研究の内容?成果
本臨床試験(KEYNOTE-564)は、淡明細胞型腎がんで腎摘除術または腎部分切除術後の再発リスクが高く、全身治療を受けたことがない患者を、ペムブロリズマブを3週おきに200 mg、最長で17サイクルまで投与する群(ペムブロリズマブ群)と、プラセボを投与する群(プラセボ群)に無作為に割り付けました。主要評価項目は無病生存期間で、副次評価項目は全生存期間、安全性などでした。
994名がペムブロリズマブ群(496明)とプラセボ群(498名)に割り付けられました。無作為化からの観察期間中央値24.1カ月での解析結果にて、24ヵ月時点での無病生存割合は、ペムブロリズマブ群77.3%、プラセボ群68.1%であり、ペムブロリズマブ投与が無病生存期間の延長に寄与していることが示されました。24ヵ月時点での全生存割合はペムブロリズマブ群96.6%、プラセボ群93.5%でした。グレード3以上の有害事象は、ペムブロリズマブ群の32.4%、プラセボ群の17.7%で認められました。ペムブロリズマブに起因する死亡例はありませんでした。
今後の展開
本論文データは中間解析の結果であり、今後長期データを解析、公表する予定があります。本臨床試験の結果に基づき、ペムブロリズマブが術後補助療法として保険診療にて使用可能となることが期待されます。
用語解説
[1] ペムブロリズマブ
免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれるがん免疫療法の治療薬。免疫細胞(リンパ球)ががん細胞を攻撃する際にかけられるブレーキを阻害することで、がん細胞を攻撃しやすくする作用を有し、さまざまながん種での効果が立証されている。
[2] プラセボ
薬効をもたない偽薬のこと。本臨床試験では、患者も担当医もペムブロリズマブ群とプラセボ群のいずれに割り付けられたかを知らされないため、ペムブロリズマブの真の治療効果や副作用を正当に評価することが可能となる。
[3] 無病生存期間
無作為化から最初の再発または死亡までの期間(死因は問わない)
[4] 全生存期間
無作為化から死亡までの期間(死因は問わない)
論文詳細
論文名
Adjuvant Pembrolizumab after Nephrectomy in Renal-Cell Carcinoma
著者
Choueiri TK [1], Kitamura H [2], ほか
所属
- [1] Dana-Farber Cancer Institute
- [2] 富山大学学術研究部(医学系)腎泌尿器科学講座
掲載誌
- The New England Journal of Medicine 2021;385:683-94
- DOI: 10.1056/NEJMoa2106391