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新しい(新奇)体験がささいな記憶を長期化する鍵-セプチン5

概要

 東邦大学の上田(石原)奈津実准教授、滋賀県立総合病院臨床研究センターの谷垣健二専門研究員、University of Texas Health Science Center at San Antonioの廣井昇教授、藤田医科大学の宮川剛教授、富山大学の高雄啓三教授、名古屋大学の木下専教授らの研究グループは、「新しい場所に行った」「初めての体験をした」といった新奇体験の一定の時間窓内(直前直後)に起きた、普段なら忘れてしまうような出来事が翌日(24時間後)まで記憶に残る現象(行動タグ付け)に注目しました。その結果、22q11.2欠失(注1)関連の神経精神疾患とも関連が示唆される細胞骨格タンパク質セプチン5(以下、Septin-5)(注2)を欠損したマウス(Septin5?/?)は、基礎的な海馬依存性の空間?物体記憶については概ね正常である一方、弱い学習(5分の物体学習)で形成された不安定な記憶が一定の時間窓内の新奇体験によって長期記憶へ固定化される「行動タグ付け」については、選択的に成立しないことを見出しました。
 本研究は、Septin-5が「記憶を作る」一般機構ではなく、新奇体験をきっかけに記憶を長く残す仕組みに関わる可能性を示すものです。こうした仕組みの理解は、強い体験と日常の出来事の記憶が結びついてしまう外傷後ストレス障害(PTSD)(注3)などの病態理解にも、将来的に手がかりを与える可能性があります。
 本研究成果は、2026年2月3日に米国の神経科学分野の学術誌「Molecular Brain」に掲載されました。

用語解説

(注1)22q11.2欠失
ヒトの22番染色体の長腕(q)にある「22q11.2」領域の一部が欠ける(微小欠失)ことで起こる遺伝性疾患です。この領域には複数の遺伝子がまとまって存在するため、欠失によってそれらの働きが一度に低下し、さまざまな症状が現れることがあります。

(注2)細胞骨格タンパク質セプチン5(Septin-5)
細胞骨格セプチンを構成するセプチンファミリーに属するGTP(グアノシン三リン酸)結合タンパク質です。セプチンは、細胞分裂や細胞の形状維持など、多様な細胞機能に関与しています。Septin-5はこれまでの研究でニューロンにおいて顕著に発現していることが報告されており、遺伝学的には、Septin5を含むヒト22q11.2領域のコピー数変動が多様な神経精神疾患と関連付けられています。マウスのSeptin5欠損個体では社会行動などの異常が報告されています。

(注3)外傷後ストレス障害(PTSD)
災害や事故、犯罪被害などの強い外傷体験をきっかけに発症しうる精神障害です。体験に関するつらい記憶が繰り返しよみがえる(フラッシュバック)、強い警戒心が続く、関連する状況を避けてしまう、といった症状がみられることがあります。恐怖に関わる学習?記憶や情動の調節に関係する神経回路が、症状の背景にあると考えられています。

研究内容の詳細

新しい(新奇)体験がささいな記憶を長期化する鍵-セプチン5[PDF, 386KB]

論文情報

雑誌名

「Molecular Brain」(2026年2月3日)

論文タイトル

Impairment of novelty-dependent hippocampal behavioural tagging in Septin5-deficient mice

著者

Natsumi Ageta-Ishihara*, Naoto Fukumasu, Kazuki Fujii, Yumie Koshidaka, Kenji Tanigaki, Takeshi Hiramoto, Gina Kang, Noboru Hiroi, Tsuyoshi Miyakawa, Keizo Takao, Makoto Kinoshita

DOI

https://doi.org/10.1186/s13041-026-01276-4

お問い合わせ

富山大学学術研究部医学系 行動生理学講座
教授 高雄 啓三

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